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“The Chosen One”は(神に)選ばれし者、などと訳されます。このフレーズは聖書をはじめ、創作物や企業名、さらには最近のニュージーランドのGⅠ勝ち馬名などにも使われている馴染みのあるものです。
皆さんの身近に、選ばれし者と呼べるような人はいるでしょうか。私は、私自身が選ばれし者になりたいと密かに思っておりまして……
自身が目立つよりも他人が目立つことを応援したい、という添えもの根性で生きてきた私にとっては、自身が勝つと相手が負けてしまうようなスポーツは苦手だったのかもしれません。
10年前にマラソンという趣味を見つけてこのかた真剣に続けられたのは、自身が速く走っても誰かのタイムが遅くなるわけではない陸上競技の特性が私に合っていたせいでしょう。
フルマラソンを結構走れる市民ランナーの多くが目標とするタイムに、3時間切り(サブ3)があります。学生時代に陸上経験の無い一般成人男性が目指すには途方もない記録です。
ちなみに10年前のマラソン男子世界記録はケニアのキメット選手が出した2時間2分57秒でした。その後はキプチョゲ選手、キプタム選手といったケニアの名ランナーが世界記録を更新していますが、公式記録では人類はまだ2時間の壁を超えられていません。(先日、ハーフマラソン男子世界記録を大幅に塗り替えたウガンダのキプリモ選手。4月にロンドンマラソンを走るそうで、記録が楽しみです)。
10年前の私がトレーニングメニューを組む上で参考にしたのが、他の市民ランナーのブログでした。そして、世の中には仕事と家庭を持ちながらサブ3を成し遂げている市民ランナーが少なからず居ることを知り、大いに驚きました。世界記録と1時間も変わらないタイムを、普通のおじさんランナー(失礼)が叩き出せるとは!そもそも42km強を完走するだけでも大変なのに。
私がマラソンを続け、サブ3の難しさを実感するにつれ、サブ3を達成した諸先輩ランナーは(大げさに聞こえるとは思いますが)きっと選ばれし者なのだと思うようになりました。怪我やら多忙やらで何度も挫折しかけ、ラン歴の割にはタイムが伸び悩んでいた私ですが、いつかはサブ3の領域へ並び立ちたいという思いで、コロナ禍のため大会が無かったシーズンでも一意専心、走ってきました。
昨年5月の洞爺湖マラソンで2時間54分台を記録し、私もとうとうサブ3おじさんとなりました。しかし、誰かから何かを選ばれたような感覚はありません。そもそも10年前と現在ではマラソンのトレーニング環境が大きく変わりました。YoutubeやXなどのSNSで、日本のプロ・実業団ランナー、ランニングのインフルエンサーなどから、誰でも手軽にトレーニング方法を学びやすくなったように思います。またシューズも厚底、薄底ともに目覚ましい進歩を遂げました。
そもそも家庭を持たずプライベートの時間を作りやすい私が、あのとき憧れた諸先輩ランナーと肩を並べられたとは到底思えませんでした。そこでゴールラインを伸ばしに伸ばして、2時間50分切り(サブ50)が目下の私の目標となっています。
どうやら、神様から選ばれる前にまず私が私自身を認め、選ぶことができるのか。
それが私のマラソンにおける最大のテーマのようです。
冬期間のトレーニングの成果を確かめたくて、先日は東京の30kmの大会に出場しました。
アップダウンが延々と続く難コースで、
残念ながら目標とするタイムには遥か届きませんでした。
関東以南と違って北海道はこれからが本格的なマラソンの時期となります。
“The Chosen One”ではなく“My Chosen One”になるため、今シーズンも挑み続けたいと思います。
医療ソーシャルワーカー 武藤大樹